シノニム: San Piero
夏秋兼用品種
果実の大きさ:夏果130~220g 秋果50~115g
果皮:夏果 帯緑紫色 秋果 紫褐色
果肉:ピンク~レッド
肉質:やや粗い
耐寒性ゾーン:8B~(-9.3~-6.7度)(東北地方太平洋沿岸・関東~四国・九州山間部以南)
原産国:アメリカ
イチジクの品種である「桝井ドーフィン」と「ドーフィン」の違いは、正式名称と品種名の違いによるもので、正式名称「ドーフィン」ですが、桝井光次郎氏が海外から持ち込み、「桝井ドーフィン」と名付けたことに由来します。
日本でフレッシュなイチジクを買おうと思ったとき、真っ先に候補に挙がるのが桝井ドーフィンで、日本のイチジクの市場の約8割を占めるといわれているほど、圧倒的シェアをもつ品種です。
ドーフィンとはフランス語で皇太子妃という意味で、西洋から来た果物らしい名前です。
特徴・味・耐寒性
- 果実の大きさは、夏果130~220g・秋果50~115gと大きく、果皮は夏果:帯緑紫色・秋果:紫褐色で、果肉はピンク~レッドで、熟すと目が大きく開きます。
- 味は、ねっとりとした食感に濃厚なまったりとした甘さがあり、その中にはほんのりと酸味もあり、中央部のプチプチとした食感がさらにおいしさを際立たせてくれます。
- 耐寒性:少し弱い 耐寒性ゾーン:8B~(-9.3~-6.7度)(東北太平洋沿岸・関東~四国・九州山間部以南)
- 生食でも十分おいしいですが、ワインでコンポートにすると高級感漂うおしゃれなデザートに変身します。
「桝井ドーフィン」という品種名の由来!
広島県の種苗業者の桝井光次郎氏が1908(明治41)年にフランス人の友人から貰った北米産の苗木をアメリカから持ち帰ってイチジク・ドーフィン種を、温暖で降水量の少ない果物の栽培に適していた兵庫県の川西市で育苗し「ドーフィン」として各地に販売したが、当初のものは夏果しか穫れない「ビオレ・ドーフィン」だたようで、その後本来の「ドーフィン」を取り寄せ導入したところ、夏秋いずれも実が付き、夏果の形状もそれまでのものとは異なることなどから、区別するために「桝井ドーフィン」という名称で販売した、ということのようです。
当時、川西の南部地区は猪名川流域の水はけの良い土壌を活かし、桃やミカンなどの果樹栽培で知られる地でした。桝井氏は川西地区の前川友吉氏と一緒に育成を始め、素晴らしい品種の栽培に成功します。それこそが後の「桝井ドーフィン」です。
その後、その地で栽培、育成。やがて土地に定着し、桝井ドーフィンと呼ばれるイチジクになり、現在生産量が1位である愛知県、2位の和歌山県へと栽培が広がっていったようです。
現在兵庫県はイチジクの国内収穫量としては3位の生産量であるが、桝井ドーフィン発祥の川西市では桝井ドーフィンの生産栽培とブランド化に向けて活動をしています。
川西産いちじく「朝採りの恵み」「朝採り 完熟いちじく 桝井ドーフィン」などの名前で、大阪や神戸など大都市に近い立地条件と、温暖な気候に恵まれた風土を生かした近郊農業として市南部の久代、加茂、栄根地区を中心に約100戸余りの農家が約12ヘクタールの畑で生産。京阪神を中心に年間約400トンが出荷されています。
桝井ドーフィン物語
幼少のころから海外雄飛への夢をふくらませた「桝井光次郎」は尋常小学校卒業後、家業の農業に従事していたが明治35年、好きだったバラの苗木の育て方を習うため単身アメリカに渡った。
この物語は、「桝井光次郎氏」が明治35年、22歳のとき渡米することから始まる。
光次郎氏は6年間カリフォルニアの農場で、果樹、花木類の繁殖、育成の技術を学び明治41年帰国桝井農場を設立。
研修目的だったバラ事業は、日本の気候風土と当時の時代背景にそぐわず失敗。この失敗がなければ、「桝井ドーフィン物語」もなかったのかもしれない。
帰国時にフランス籍の友人の勧めで持ち帰ったイチジク穂3本の苗の生産・販売を始めた。
広島には果樹の大産地がないため他県に出て販売、自転車と汽車を使って全国の農会(今の農業協同組合)や農家を営業して回る。当時全国に苗木を売って歩いたのは桝井農場ただ一つであったという。
光次郎が売りこんだイチジクは、それまでに日本にあった在来種の「蓬莱柿」や外来種の「ブラウンターキー」の2倍の大きさ、また収量も蓬莱柿の2倍、ブラウンターキーの3倍も上がり栽培者の注目を集めた。
新物食いで、目先のきいた光次郎はバラ作りから一転、この新種と思われるイチジクの苗木生産と販売に力を入れ、アメリカ仕込みの苗木生産の技術を駆使し日々、挿し木を行いこのユニークなイチジクの生産に力を入れる。
光次郎は桝井ドーフィン以外にも大正時代に沢山の品種をカルフォルニアより導入しています。
ブラウンターキー、ロイヤルビンヤード、サンペドロホワイト、カドタ、ビオレードーフィン、セレスト、ホワイトゼノア、セントジョイン、オズボーンプロフィック、ホワイトマルセイユ、ホワイトアドリアチックカルフォルニアブラック、ブルンスウィック、ブラックイスキア等々です。
栽培方法 露地栽培
【植え付け・仕立て】
- 一般的にイチジクは、一文字仕立てまたは開心自然形が良いとされますが、桝井ドーフィンは一文字仕立が有名ですが、家庭菜園では庭の広さを考慮して仕立てを考えても良いと思います。
- 1年目は収穫は考えず、土台となる樹の骨格を作ることを目的とします。
- 植え付け時に苗木を高さ50cm程度のところで切り戻し、そこから発生する新梢を自分の作りたい樹姿に必要な数だけ発生させます。その年の落葉後に、伸ばした各枝をさらに30cm程度の長さで切り戻して、結実準備が完了です。
【開心自然形】
開心自然形は若木のうちから主枝を3本決め、60度の角度になるように斜め上に枝を伸ばします。 樹高が高くなりにくく、管理しやすい樹形です。新梢が多く出るため、「新梢管理」による樹勢のコントロールが最も行いやすい樹形です。 結果枝も多いため、管理次第で多収につながります。
特に向いている品種
- 夏果専用品種(コナドリア、サンペドロホワイト、ビオレ ドーフィン)
- 樹勢が強い品種(ビオレソリエス、早生日本種、イスラエル、カリフォルニア・ブラック、ノルドランド等)
※ビオレソリエスは特に着果が難しく、ブドウの仕立てによく用いられる、主枝を4本伸ばす「四文字仕立て」まはた「X仕立て」という手法で育てられています。その手法により、1本の木から多くの実を収穫することが可能になっています。(佐渡島)
また、根域制限、環状剥皮などおこなっている方もいらっしゃいます。 - 樹勢が弱すぎる品種(セレスト、ショートブリッジ、ブラウンターキー等)
【一文字整枝】
主枝となる2本の枝を「一文字」に伸ばした仕立て方!
- 1年目は斜め45度にY字に伸ばし、十分に枝が硬化したら曲げたいところにノコギリで下半分を切り曲げれるようにして、水平に誘引する。
- 水平に這わせた誘引線(またはパイプ)に成長に合わせてこまめに誘引する
- メリットは、直線的に移動しながら作業ができる効率の良さ。
- デメリットは、主枝は上面が凍害の被害を受けやすいため、とくに晩霜害の多発地帯では防寒措置が必須。
向いている品種
キング・桝井ドーフィン・ネグローネ・姫蓬莱・バナーネ、ブルンスウィック、カドタ、アーテナ等
※ネグローネは、一文字整枝すると、収量は2.5倍以上になる。【吉岡国光園】
【土壌・肥料・水やり】
- 日当たりの良い、水はけの良い用土に植え、特に植えてから最初の1年は、定期的に木に水を与えてください。通常定植2年目くらいから実をつけ始めます。
- 発芽期の3~4月、特に乾燥する7~8月、9月上中旬は、土の乾き具合を見て5日に1回程度は水やりすると枝が良く伸び、実が甘くなります。
(※鉢植えでは、4~10月は1日1回、ただし夏には2回行う。冬は7~10日に1回行う。) - イチジクはあまり土を選ばないと言いますが、一般的に有機物が豊富で、わずかにアルカリ性で排水と通気の良い土壌が理想的です。
- 酸性土壌を嫌うのでPH7.0を目標に、冬に苦土石灰などをまいてで調整します。
- 肥料は5月はじめ【N/P/K=13/10/13の肥料(1~3年150g・ 4~6年450g )】と12月~1月に、有機配合肥料と苦土石灰を1㎡当たり150g施します。
(※鉢植えでは、植え付け1年目は5~10月まで1~2個。または緩効性化成肥料10~20gを2回。2年目以降は冬に油かすを50g、4~10月には毎月、化成肥料を5g程度施す。) - 果実は1枝に8~10個が適当です・実がたくさん付きすぎると栄養不足で成長しないので、早めに摘果します。
【有機配合肥料】
有機質肥料と無機質肥料が混ざっている肥料の事をいいます。 有機質肥料は緩効性肥料が多いですが、無機質肥料は即効性肥料が大半を占めます。 また、土を柔らかくするのが有機質肥料、徐々に固くなっていくのが無機質肥料です。
【害虫・病気・防寒対策】
- 必ずカミキリムシ(テッポウムシ)予防のために、カットサイドSまたは予防フィルムを、幹に塗るか、見つけ次第捕殺してください。
- 幼虫は幹に入りおがくずのような糞を外に出すので枝を切り落とすか穴に【スミチオン1000培液】または、【住友化学園芸 殺虫剤 園芸用キンチョールE カミキリムシ 幼虫 退治】などを注入して退治します。
- 日当たりと風通しをよくして、害虫や病気(さび病など)から木を守ります。
- 木の周りに防鳥網を設置するなどの鳥害対策、また果実に袋をかけて鳥や蟻から守ることも必要になります。
- 収穫は、果実が熟して木から落ちる直前が一番おいしいので、熟したものから順次摘み取ります。
- 耐寒性はあまり強くないので、九州の北の防寒対策が必要になります。
- 果実は降霜や降雪に遭遇すると果実が成熟しても果皮が硬くなり、食味が落ちるため、収穫時期は寒冷地では10月をめどに考えた方がよさそうです。
- 秋果を収穫するために、冬に強剪定します。
【水やり】
イチジクの生産量第一位が、東ヨーロッパと西アジアにまたがるトルコで、次にエジプト、イランと続くので、乾燥した土壌に適しているように思われますが、それらの地域は、温暖ながら比較的降水量もあり肥沃な地帯なので、イチジクが乾燥に強いというわけでは決してありません。
逆に水は好む性質があるので、発芽期の3~4月、乾燥する7~8月には庭植えでも水遣りをすると枝が良く成長し、実が甘くなります。
特に日差しが強く乾燥しやすい夏場は、枯れることさえあるので、水はけのよすぎる土壌や、鉢での栽培では注意が必要です。
※ただし水はけが極端に悪い土壌では生育は著しく劣ります。